心にしみる原始仏典


「蟻塚の喩え」『マッジマ・ニカーヤ』第23経(PTS Text,MN.Vol.1,pp.142-145.)
漢訳:「中阿含経」九五経(『大正蔵』一、九一八中〜九一九上)「雑阿含経」巻第三八(一〇七九)(『大正蔵』二、二八二上〜下)「別訳雑阿含経」巻第一(一八)(『大正蔵』二、三七九下〜三八〇上)「増一阿含経」巻第三三、等法品第三十九(九)(『大正蔵』二、七三三中〜下)


 このように、わたしは聞きました。あるとき、尊師は、サーヴァッティーのジェータ太子の林にある給孤独長者の園林に滞在していました。


さて、そのときクマーラカッサパ尊者は、アンダ林に滞在していました。そこで、ある神霊が、夜も更けた頃、容色もうるわしく、アンダ林をあまねく照らして、尊者クマーラカッサパのところに近づきました。近づいて、一方の端に立ちました。一方の端に立ったかの神霊は、尊者クマーラカッサパに、このように言いました。

「 比丘よ、比丘よ、この蟻塚は、夜に煙を出し、昼に燃えます。
バラモンは、このように言いました。『賢い者よ、剣を取って、掘り起こしなさい』
剣を取って、賢い者が、掘り起こすと、閂が見えました。『大徳よ、閂です』
バラモンは、このように言いました。『閂を取りあげ、賢い者よ、剣を取って掘り起こしなさい』
剣を取って、賢い者が、掘り起こすと、蛙(ふくれたもの)が見えました。『大徳よ、蛙です』
バラモンは、このように言いました。『蛙を取りだして、賢い者よ、剣を取って掘り起こしなさい』
剣を取って、賢い者が、掘り起こすと、分かれ道が見えました。『大徳よ、分かれ道です』
バラモンは、このように言いました。『分かれ道を取り除いて、賢い者よ、剣を取って掘り起こしなさい』
剣を取って、賢い者が、掘り起こすと、鉢が見えました。『鉢です、大徳よ』
バラモンは、このように言いました。『鉢を取りだして、賢い者よ、剣を取って掘り起こしなさい』
剣を取って、賢い者が、掘り起こすと、亀が見えました。『亀です、大徳よ』
バラモンは、このように言いました。『亀を取りだして、賢い者よ、剣を取って、掘り起こしなさい』
剣を取って、賢い者が、掘り起こすと、屠殺場が見えました。『屠殺場です、大徳よ』
バラモンは、このように、言いました。『屠殺場を取りだして、賢い者よ、剣を取って掘り起こしなさい』
剣を取って、賢い者が、掘り起こすと、肉の塊が見えました。『肉の塊です。大徳よ』
バラモンは、このように言いました。『肉の塊を取りだして、賢い者よ、剣を取って、掘り起こしなさい』
剣を取って、賢い者が、掘り起こすと、龍が見えました。『龍です。大徳よ』
バラモンは、このように言いました。『龍をそのままにしておきなさい。龍にふれてはいけない。龍に礼拝しなさい』

比丘よ、あなたは、これらの質問を、尊師のところに行ってたずねるとよいでしょう。尊師があなたに説明するとおりに、あなたは覚えておくのがよいでしょう。比丘よ、神とともなる世界、悪魔とともなる世界、梵天とともなる世界において、沙門・バラモンを含み、神や人を含む人々において、如来や如来の弟子、また、ここから聞く以外に、これらの質問を説明して意に適う人を、わたしは見ません 」

かの神霊は、こう語りました。こう言うと、その場で姿を消しました。

                            *****

さて、尊者クマーラカッサパは、その夜が明けると、尊師のところに近づいていきました。近づいて尊師にあいさつをして一方の隅に座りました。一方の隅に座った尊者クマーラカッサパは、尊師に、このように言いました。

「 尊師よ、昨夜、ある神霊が、夜も更けた頃、容色もうるわしく、あまねくアンダ林を照らして、わたしのところにやって来ました。やってきて一方の端に立ちました。一方の端に立って、尊師よ、かの神霊は、わたしにこのように言いました。

比丘よ、比丘よ、この蟻塚は、夜に煙を出します。昼に燃えます。
バラモンは、このように言いました。『賢い者よ、剣を取って、掘り起こしなさい』
剣を取って、賢い者が、掘り起こすと、閂が見えました。『大徳よ、閂です』
バラモンは、このように言いました。『閂を取りあげ、賢い者よ、剣を取って掘り起こしなさい』
剣を取って、賢い者が、掘り起こすと、蛙(ふくれたもの)が見えました。『大徳よ、蛙です』
バラモンは、このように言いました。『蛙を取りだして、賢い者よ、剣を取って掘り起こしなさい』
剣を取って、賢い者が、掘り起こすと、分かれ道が見えました。『大徳よ、分かれ道です』
バラモンは、このように言いました。『分かれ道を取り除いて、賢い者よ、剣を取って掘り起こしなさい』
剣を取って、賢い者が、掘り起こすと、鉢が見えました。『鉢です、大徳よ』
バラモンは、このように言いました。『鉢を取りだして、賢い者よ、剣を取って掘り起こしなさい』
剣を取って、賢い者が、掘り起こすと、亀が見えました。『亀です、大徳よ』
バラモンは、このように言いました。『亀を取りだして、賢い者よ、剣を取って、掘り起こしなさい』
剣を取って、賢い者が、掘り起こすと、屠殺場が見えました。『屠殺場です、大徳よ』
バラモンは、このように、言いました。『屠殺場を取りだして、賢い者よ、剣を取って掘り起こしなさい』
剣を取って、賢い者が、掘り起こすと、肉の塊が見えました。『肉の塊です。大徳よ』
バラモンは、このように言いました。『肉の塊を取りだして、賢い者よ、剣を取って、掘り起こしなさい』
剣を取って、賢い者が、掘り起こすと、龍が見えました。『龍です。大徳よ』
バラモンは、このように言いました。『龍をそのままにしておきなさい。龍にふれてはいけない。龍に礼拝しなさい』

比丘よ、あなたは、これらの質問を、尊師のところに行ってたずねるとよいでしょう。尊師があなたに説明するとおりに、あなたは覚えておくのがよいでしょう。比丘よ、神とともなる世界、悪魔とともなる世界、梵天とともなる世界において、沙門バラモンを含み、神や人を含む人々において、如来や如来の弟子、また、ここから聞く以外に、これらの質問を説明して意に適う人を、わたしは見ません。

尊師よ、このように、かの神霊は言いました。こう言うと、その場で姿を消しました。
尊師よ、いったい蟻塚とは何ですか。夜に煙を出し、昼に燃えるものは何ですか。バラモンとは誰でしょう。賢い者とは誰でしょう。剣とは何ですか。掘り起こすとは何ですか。閂とは何ですか。蛙とは何ですか。分かれ道とは何ですか。鉢とは何ですか。亀とは何ですか。屠殺場とは何ですか。肉の塊とは何ですか。龍とは何ですか 」

(尊師)
「 『蟻塚』というのは、比丘よ、四大元素からなる身体の同義語です。その身体とは、母と父から生まれて、飯と粥の集積であり、無常であって、破壊、粉砕、分裂、砕破を性質とするものです。
比丘よ、昼の作業について、夜によく追認し追究することが、これが、夜に煙を出すことです。
比丘よ、夜に追認して追究した後、昼に、身体によって、ことばによって、心によって、作業に取り組む、これが、昼に燃えることです。
『バラモン』というのは、比丘よ、如来、というこれの同義語です。(如来とは)阿羅漢であり、正等覚者であります。
『賢い者』というのは、比丘よ、学ぶべきことのある比丘、というこの同義語です。
『剣』とは、比丘よ、聖なる智慧、というこれの同義語です。
『掘り起こすこと』というのは、比丘よ、精進努力、というこれの同義語です。
『閂』というのは、比丘よ、無明、というこれの同義語です。
『閂を取り出しなさい、無明を捨てなさい、剣を取って、賢い者よ、掘り起こしなさい』という、これが、この意味するところです。

『蛙』というのは、比丘よ、怒りと悩みという、これの同義語です。
『蛙を取り出しなさい、怒りと悩みを捨てなさい、剣を取って、賢い者よ、剣を取って、掘り起こしなさい』という、これが、この意味するところです。
『分かれ道』というのは、比丘よ、疑い、というこれの同義語です。
『分かれ道を取り出しなさい、疑いを取り除きなさい、賢い者よ、剣を取って、掘り起こしなさい』という、これが、この意味するところです。
『鉢』というのは、比丘よ、五つの覆い、というこれの同義語です。すなわち、欲や欲楽という覆い、怒りという覆い、心の沈鬱・眠気という覆い、心のうわつき・後悔という覆い、疑いという覆いです。
『鉢を取り出しなさい、五つの覆いを捨てなさい、賢い者よ、剣を取って、掘り起こしなさい』という、これが、この意味するところです。
『亀』というのは、比丘よ、五取蘊という、これの同義語です。つまり、身体という執着の集まり、感受という執着の集まり、表象という執着の集まり、意欲という執着の集まり、識別という執着の集まりというものです。
『亀を取り出しなさい、五取蘊を捨てなさい、賢い者よ、剣を取って、掘り起こしなさい』という、これが、この意味するところです。
『屠殺場』というのは、比丘よ、五つの欲の類い、という、これの同義語です。目によって識別される色形であって、好ましく、かわいらしく、意に適い、愛しいもので、欲をともなって、魅惑されるもののことです。
耳によって識別される音であって、好ましく、かわいらしく、意に適い、愛しいものであって、欲をともなって、魅惑されるもののことです。
鼻によって識別される香であって、好ましく、かわいらしく、意に適い、愛しいものであって、欲をともなって、魅惑されるもののことです。
舌によって識別される味であって、好ましく、かわいらしく、意に適い、愛しいものであって、欲をともなって、魅惑されるもののことです。
身体によって識別される触れるものであって、好ましく、かわいらしく、意に適い、愛しいものであって、欲をともない、魅惑されるもののことです。
『屠殺場を取り除きなさい、五欲の類いを捨てなさい。賢い者よ、剣を取って、掘り起こしなさい』という、これが、この意味するところです。
『肉の塊』というのは、比丘よ、比丘よ、喜びと貪欲という、これの同義語です。
『肉の塊を取り除きなさい、喜びと貪欲とを捨てなさい、賢い者よ、剣を取って、掘り起こしなさい』という、これが、この意味するところです。
『龍』というのは比丘よ、煩悩の尽きたもの、という、この同義語です。
『龍は、そのままにしなさい、龍を打ってはなりません。龍に礼拝しなさい』という、これが、この意味するところです 」

このように、尊師は言いました。心かなえるクマーラカッサパ尊者は、尊師の説いたことを大いに喜びました。



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