『スッタ・ニパータ』(『クッダカ・ニカーヤ』)(PTS Text,PP.1-3.) 第1章 蛇の章 1 蛇経 1 蛇の毒が広がるのを、薬草によって抑えるように、わき上がる怒りを抑える比丘は、こちらの岸(この世)とあちらの岸(かの世)をともに捨てる。あたかも、蛇が、老朽の古い皮を脱ぎ捨てるように。 2 池に咲く蓮の花を潜って断ち切るように、むさぼりを残りなく断ってしまった比丘は、こちらの岸(この世)とあちらの岸(かの世)をともに捨てる。あたかも、蛇が、老朽の古い皮を脱ぎ捨てるように。 3 流れる奔流を涸らして断ち切るように、渇愛を残りなく断ってしまった比丘は、、こちらの岸(この世)とあちらの岸(かの世)をともに捨てる。あたかも、蛇が、老朽の古い皮を脱ぎ捨てるように。 4 きわめて弱い葦の堤(橋)を、大暴流がなぎ払うように、慢心を残りなく打ち払った比丘は、 こちらの岸(この世)とあちらの岸(かの世)をともに捨てる。あたかも、蛇が、老朽の古い皮を脱ぎ捨てるように。 5 無花果(いちじく)の樹木では種々の花に出合えないように、さまざまな生存の中で真髄(サーラ)に到達しなかった比丘は、こちらの岸(この世)とあちらの岸(かの世)をともに捨てる。あたかも、蛇が、老朽の古い皮を脱ぎ捨てるように。 6 (こうだから有である、無である)という有無の考えを超えて、内部に怒気をもたない比丘は、こちらの岸(この世)とあちらの岸(かの世)をともに捨てる。あたかも、蛇が、老朽の古い皮を脱ぎ捨てるように。 7 心の内でよく分析された諸々の思索がことごとく破壊された比丘は、こちらの岸(この世)とあちらの岸(かの世)をともに捨てる。あたかも、蛇が、老朽の古い皮を脱ぎ捨てるように。 8 一切のこの妄想(パパンチャ)を乗り越えて行って、行き過ぎることもなく戻ることもない比丘は、こちらの岸(この世)とあちらの岸(かの世)をともに捨てる。あたかも、蛇が、老朽の古い皮を脱ぎ捨てるように。 9 「この一切のものは虚妄(ヴィタタ)である」と、世間について知って、行き過ぎることもなく戻ることもない比丘は、こちらの岸(この世)とあちらの岸(かの世)をともに捨てる。あたかも、蛇が、老朽の古い皮を脱ぎ捨てるように。 10 「この一切のものは虚妄である」と、欲を離れて、行き過ぎることもなく戻ることもない比丘は、こちらの岸(この世)とあちらの岸(かの世)をともに捨てる。あたかも、蛇が、老朽の古い皮を脱ぎ捨てるように。 11 「この一切のものは虚妄である」と、愛執を離れて、行き過ぎることもなく戻ることもない比丘は、こちらの岸(この世)とあちらの岸(かの世)をともに捨てる。あたかも、蛇が、老朽の古い皮を脱ぎ捨てるように。 12 「この一切のものは虚妄である」と、怒りを離れて、行き過ぎることもなく戻ることもない比丘は、こちらの岸(この世)とあちらの岸(かの世)をともに捨てる。あたかも、蛇が、老朽の古い皮を脱ぎ捨てるように。 13 「この一切のものは虚妄である」と、無知を離れて、行き過ぎることもなく戻ることもない比丘は、こちらの岸(この世)とあちらの岸(かの世)をともに捨てる。あたかも、蛇が、老朽の古い皮を脱ぎ捨てるように。 14 いかなる随煩悩もなく、不善の根が根絶された比丘は、こちらの岸(この世)とあちらの岸(かの世)をともに捨てる。あたかも、蛇が、老朽の古い皮を脱ぎ捨てるように。 15 こちらの岸に戻る縁となる、不安から生ずるものを、いささかももたない比丘は、こちらの岸(この世)とあちらの岸(かの世)をともに捨てる。あたかも、蛇が、老朽の古い皮を脱ぎ捨てるように。 16 束縛の生存への原因となるような、欲の林をいささかももたない比丘は、こちらの岸(この世)とあちらの岸(かの世)をともに捨てる。あたかも、蛇が、老朽の古い皮を脱ぎ捨てるように。 17 五つの覆い※を捨て、苦しみがなく、疑惑を乗り越えて、煩悩を離れた比丘は、こちらの岸(この世)とあちらの岸(かの世)をともに捨てる。あたかも、蛇が、老朽の古い皮を脱ぎ捨てるように。 ※五つの覆い(五蓋) 貪欲、怒り、心の沈むこと、心のうわつき(悼挙)、疑い |