心にしみる原始仏典


『サンユッタ・ニカーヤ』3.8 (PTS Text,Vol.I,p.75.)

第三篇 コーサラ相応

第一章 

8.マッリカー


サーヴァッティーでの出来事です。
そのとき、パセーナディ・コーサラ王は王妃マッリカーとともにすばらしい高楼の上にのぼっていたのです。

さて、パセーナディ・コーサラ王はマッリカー妃に語りました。
「マッリカーよ、そなたには、誰かほかのもので自分よりももっと愛しいものがいるのだろうか?」
「大王さま、わたくしには自分よりほかに愛しいものは誰もおりません。大王さま、それでは、あなたさまは自分よりもっと愛しいものが誰かほかにおられますでしょうか?」
「マッリカーよ、わたしにとっても自分よりもっと愛しいものは誰もほかにはおらぬ」

ところで、パセーナディ・コーサラ王は高楼をおりて、世尊のところに近づいていきました。
世尊に近づいて礼拝して、一方の隅に座りました。一方の隅に座って、パセーナディ・コーサラ王は世尊に次のように述べました。――

「世尊よ、ここで、わたしはマッリカー妃とともにすばらしい高楼の上にのぼって、マッリカー妃にこのように言いました。
『マッリカーよ、そなたには、誰かほかのもので自分よりももっと愛しいものがいるのだろうか? 』と。
こう言われたとき、世尊よ、マッリカー妃はわたしにこのように答えました。
『大王さま、わたくしには自分よりほかに愛しいものは誰もおりません。大王さま、それでは、あなたさまは自分よりもっと愛しいものが誰かほかにおられますでしょうか?』
このように言われて、わたしはマッリカー妃にこのように言いました。
『マッリカーよ、わたしにとっても自分よりもっと愛しいものは誰もほかにはおらぬ』と」

さて、世尊はこの意味するところを知って、その時、この詩を語りました。

   あらゆる方角にさまよっていくのが心であるとしても、
   自分よりももっと愛しいものにたどり着くことはけっしてなかった
   自己が愛しいのは、他の人々にとっても、そうなのである
   それだから、他者を害してはいけない、自己を求めるものならば。




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