心にしみる原始仏典


『スッタ・ニパータ』(『クッダカ・ニカーヤ』)(PTS Text,PP.6-12.)

第1章 蛇の章 3 犀経(カッガ・ヴィサーナ※・スッタ)

※「カッガ」は「刀」、「ヴィサーナ」は「角」の意。「刀のような角」のことで、犀の角をあらわし、さらに「そのような角をもつもの」という複合語の意味から、「カッガ・ヴィサーナ」で「犀」を指す。しかし、従来「犀の角」と訳されてきた。漢訳の中で「犀角」ということばが頻繁に出てくることもあり、そのような影響を受けて「犀の角」と誤訳されたのではないかと思われる。


35 あらゆる生き物に対して刀杖を下に置き(=暴力をふるうことなく)、
それらのいずれをも害することなく、子を欲しないようにしなさい。
まして、どうして仲間がいるだろうか。犀のように、ただ一人行じなさい。

36 交際したならば、愛着が生まれる。愛着と結びつくならば、この苦しみが起こりうる。
愛着から生まれる過失を観察するならば、犀のように、ただ一人行じなさい。

37 友人や知己に同情するならば、心が縛られてしまい、(自らの)利益を捨てる。
親愛の中にこの畏れを見て、犀のように、ただ一人行じていきなさい。

38 竹が広がって、あたかも、絡まりもつれてくるように、息子たちや娘たちに対して愛情をもつ。
タケノコは他にすがらないように、犀のように、ただ一人行じなさい。

39 鹿は、森の中で、縛られていないので、望むがままにその領域を行く。
智慧ある人は独存することを観察して、犀のように、ただ一人行じなさい。

40 仲間の中にいれば、休むときも、立つときも、行くときも、遊行するときも、呼びかけられる。
欲するところのない独存することを観察して、犀のように、ただ一人行じなさい。

41 仲間の中にあっては、戯れたり楽しんだりということがある。子供たちにたいする深い愛情もある。
愛する人との別離を厭いながらも、犀のように、ただ一人行じなさい。

42 四方どの方位にも住まいし、害心なく、あらゆるものによって満足し、
諸々の危難を忍んで、畏れることなく、犀のように、ただ一人行じなさい。

43 出家者であっても、まとめがたい人々もおり、家に住する在家者でも、まとめがたい人々もいる。
他人の子らには無関心となって、犀のように、ただ一人行じなさい。

44 葉の落ちた黒檀のように、在家者の印を取り去って、
勇者は、在家者のきずなを断ち切って、犀のように、ただ一人行じなさい。

45 もし、智慧ある者で、共に行を行い、善く住する、賢明なる者を友としたならば、
あらゆる危難に打ち勝って、心に満足をもって、気づきをそなえて、かれとともに行じなさい。

46 もし、智慧ある者で、共に行を行い、善く住する、賢明なる者を友としないようなら、
王が、征服した王国を捨てて行くように、犀のように、ただ一人行じなさい。

47 たしかに、わたしたちは、仲間をともなうことを賞賛する。
自分より優れた者や等しい仲間には、親しみ近づかねばならない。
そういう人に出会えないなら、過ちをおかすことなく食を受ける者となって、犀のように、ただ一人行じなさい。

48 金細工職人によって見事に作られた黄金に輝く腕輪が二つ、腕のところで鳴っているのを見て、
犀のように、ただ一人行じなさい。

49 このように、同伴する者といっしょなら、わたしは、かれと無駄話をしたり、諍いが起きたりする。
未来に、この畏れのあることを観察して、犀のように、ただ一人行じなさい。

50 欲望は、実に、いろとりどりで、蜜のようであり、心楽しませるものであり、
また、異様な姿をとって心をかき乱すものである。
種々の欲望の中に危難をみて、犀のように、ただ一人行じなさい。

51 これは、わたしにとって、患いであり、腫れ物であり、悩害であり、病であり、矢であり、恐れである。
種々の欲望に、このような恐れを見て、犀のように、ただ一人行じなさい。

52 寒さ、暑さ、飢えと餓え、風と炎熱、虻や這う虫、このような一切のものを了解して、
犀のように、ただ一人行じなさい。

53 肩のしっかりと張った、蓮華文(ぶち)のある、大きな象が、群れを離れているように、
好むがままに森に住んで、犀のように、ただ一人行じなさい。

54 集会を楽しむ人には、一時的な解脱にふれるという、そのようなことはない。
―― 日種族(太陽の裔ブッダ)のことばに注意して、犀のように、ただ一人行じなさい。

55 見解の悶着を脱して、決定を得て、道にいたり、
「わたしに智が生じた。他の人によって導かれる必要はない」として、犀のように、ただ一人行じなさい。

56 むさぼりなく、欺くことなく、渇望することなく、悪意なく、汚れや無知を除き去って、
一切世界においてよりどころとするものなく、犀のように、ただ一人行じなさい。

57 無益なものを(益と)認めて、不正になじむ悪い仲間を避けなさい。
怠けることに夢中である人に、自分から仕えてはならない。犀のように、ただ一人行じなさい。

58 弁才があって、広く豊かで、多くを聞いた、法を保っている友に親しみ近づきなさい。
さまざまなことがらを知って、疑いを調伏しなさい。犀のように、ただ一人行じなさい。

59 世間にある戯れや楽しみや快楽をよしとすることなく、眺めることなく、
身を飾ることから離れて、真実を語り、犀のように、ただ一人行じなさい。

60 子と妻、父と母、財物や穀物、親族、あらゆる欲望の限りを捨てて、犀のように、ただ一人行じなさい。

61 「執着は、これである。ここには、幸せはわずかであって、味わいは乏しい。
ここには苦しみの方が多い。釣り針は、これである」と、思慮ある者は知って、犀のように、ただ一人行じなさい。

62 網を破って魚が水中に逃げるように、火が焼けてしまったところに戻ってこないように、
結縛を破って、犀のように、ただ一人行じなさい。

63 目を伏せて、うろつくことなく、感覚器官を守り、心を防護して、
(煩悩が)流れ出ることなく、(煩悩に)焼かれず、犀のように、ただ一人行じなさい。

64 葉の落ちた珊瑚樹のように、在家者の印を取り去って、出家して、袈裟衣を着て、
犀のように、ただ一人行じなさい。

65 諸々の味覚に好みを作ることなく、不動で、他人を養うことなく、
順次家ごとに托鉢し、家々に心が縛られることなく、犀のように、ただ一人行じなさい。

66 心の五つの覆いを捨て去って、随煩悩(付随して起こる煩悩)を捨て去って、
一切をよりどころとせず、愛情の欠陥を断ち切って、犀のように、ただ一人行じなさい。

67 楽と苦に背を向けて、かつての喜びと憂いに背を向けて、
平静、止息、清浄を得て、犀のように、ただ一人行じなさい。

68 最高の目的を達成するために、精進に励み、心が沈滞することなく、
行いが怠けることなく、堅固に努力し、知力体力をそなえて、犀のように、ただ一人行じなさい。

69 独座と禅定を捨てることなく、諸々のことがらについて常に法に随って行い、
諸々の生存の中にある危難を理解して、犀のように、ただ一人行じなさい。

70 渇愛の滅尽を求めて、怠ることなく、注意深く、よく学び、気づきのあるもので、
法を究めて、努力して、犀のように、ただ一人行じなさい。

71 獅子が、諸々の音に驚かないように、風が網にとらわれないように、
蓮が水に汚されないように、犀のように、ただ一人行じなさい。

72 牙の強い獅子が、君臨して、獣の王として征圧してふるまうように、辺地の臥坐処に親しみなさい。
犀のように、ただ一人行じなさい。

73 慈しみ、無関心、あわれみ、解脱、喜びを、時にしたがって修習して、
一切の世界に妨げられずに、犀のように、ただ一人行じなさい。

74 貪欲、怒り、無知を捨てて、結縛を破って、命の消滅するのを恐れることなく、
犀のように、ただ一人行じなさい。

75 利益のために、人々は親しみ近づいたり、奉仕したりする。今日、それを求めない友人は得がたい。
自分の利益のみを知る人々は、清らかではない。犀のように、ただ一人行じなさい。




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