心にしみる原始仏典


『スッタニパータ』(『クッダカ・ニカーヤ』)(PTS Text,pp.12-16)

第1章 蛇の章 4 耕作するバーラドヴァージャ経

このようにわたしは聞きました。
ある時、尊師は、マガダ国の南山にある「一本の茎」というバラモンの村に滞在していました。そのとき、耕作するバーラドヴァージャというバラモンは、種を播く時期にあたり、五百量の鋤を(牛に)繋げているところでした。
ちょうどそのとき、尊師は、午前中に、内衣を着けて、鉢と衣をもって、耕作するバーラドヴァージャが作業をしているところに近づきました。そのとき、耕作するバーラドヴァージャというバラモンは、食べ物を配っていました。
そこで、尊師は、食べ物を配っているところに近づいていきました。近づいて、一方の端に立ちました。耕作するバーラドヴァージャは、尊師が托鉢のために立っているのを見ました。尊師を見て、このように言いました。

「わたしは、沙門よ、耕し、そして、種を播きます。耕して、種を播いて、そして、食べます。おまえも、また、沙門よ、耕しなさい、そして、種を播きなさい。耕して、種を播いて、それから、食べなさい」
「わたしも、また、バラモンよ、耕して、種を播きます。耕して、種を播いて、それから、食べます」
「しかし、わたしたちは、友、ゴータマのくびきも鋤も鋤先も(牛を追う)棒も牛も見ません。ですが、友、ゴータマはこのように言います、『わたしも、また、バラモンよ、耕して、種を播きます。耕して、種を播いて、それから、食べます』と」

そこで、耕作するバーラドヴァージャというバラモンは、尊師に詩で話しかけました。

76 「あなたは、耕作者であると公言しています。しかし、わたしたちは、あなたが耕作するのを見ません。問われたなら、わたしたちがあなたが耕作していることをわかるように、たしかに、耕作していることを話してください」

77 「信仰がたねです。鍛錬(苦行)が雨です。智慧がわたしのくびきと鋤です。慚(内面の恥)が轅(ながえ)です。心が紐です。気づきは、わたしの鋤先と棒です。

78 身体を守り、言葉を守り、お腹に入る食べ物を制御し、真実を草刈りとして行い、柔和であることを(くびきから牛を)解き放つこととして行います。

79 精進が、わたしにとって、くびきを掛けた牛であり、瑜伽安穏※に運んでくれるものです。退くことなく行きます。そして、そこに到達したなら、憂うことはありません。
※ 瑜伽安穏 くびきより逃れて安穏になること。束縛を解いて至る涅槃の境地。

80 このように、この耕作は行われます。それは、不死の果実となるのです。この耕作をなしたならば、あらゆる苦しみから解き放たれるのです」。

さて、耕作するバーラドヴァージャというバラモンは、大きな銅の鉢に粥を用意させて、尊師にささげました。
「友、ゴータマは、どうぞ、粥を召し上がってください。耕作するのは、友あなたです。友、ゴータマは、不死の果実を実らせる耕作をするのですから」

81 「詩を唱えたのなら、わたしとしては食べるべきではありません。バラモンよ、正しく観る者たちには、このような法(習慣)はないのです。詩を唱えて(報酬を得る)ことを除いているのが、諸仏なのです。(この)法があるとき、このような生活があるのです。

82 完全なる偉大な仙人であり、煩悩を滅尽し、悪しき行為が静まった人には、他の飲食物で奉仕しなさい。というのは、これは、功徳を期待するものの(福の)田であるから。

「それでは、友ゴータマよ、わたしは、この粥を与えましょうか」
「バラモンよ、わたしは、神・悪魔・梵天とともなる世界において、神や人間、沙門・バラモンを含む人々の中で、この粥を食べて完全に消化するような者を、如来や如来の弟子以外には見ません。だから、バラモンよ、この粥を、おまえは、草のないところに捨てるか、虫のいない水の中に沈めなさい」

そこで、耕作するバーラドヴァージャ・バラモンは、この粥を、虫のいない水に沈めました。すると、その粥は、水の中に投げ捨てられると、シュッシュッと蒸気をあげてくすぶり大いに湯煙をあげました。たとえば、日中熱せられた鋤先が、水の中に入れられて、シュッシュッと蒸気をあげてくすぶり大いに湯煙をあげるように、粥は水の中に投げ入れられると、シュッシュッと蒸気をあげてくすぶり大いに湯煙をあげました。
耕作するバーラドヴァージャ・バラモンは、恐ろしくなって身の毛がよだち、尊師のところに近づきました。近づいて、尊師の足下に頭をかがめて(礼をし)、このように言いました。

「希有なことです、友ゴータマよ、希有なことです、友ゴータマよ。あたかも、倒れた者を起こすように、覆われたものを開くように、道に迷った者に告げ教えるように、『眼あるものは色形を見るだろう』として、暗闇で灯火を差し出すように、そのように、友、ゴータマは、様々な方法で法を明らかにしました。ここで、わたしは、尊者ゴータマに帰依します、法と僧団に帰依いたします。わたしは、尊者ゴータマのもとで出家をはたし、具足戒を得たいと思います。

そして、耕作するバーラドヴァージャ・バラモンは尊師のもとで出家して、具足戒を受けました。具足戒を受けて間もなく、尊者バーラドヴァージャは、一人離れて、怠ることなく熱心に精進して住していると、久しからずして、その無上の清浄行の終極 ―― 即ち、そのために 良家の子が正しく家から出て家なきものへと出家するのですが ―― それを、現世において証知して、悟り、具現して、住まいしていました。
「尽きたのは生まれることである。完成したのは清浄行である。為したのは為すべきことがらであって、さらにこの(輪廻の)状態に戻ることはない」と証知したのです。
こうして、尊者バーラドヴァージャは、阿羅漢の一人となりました。
   



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